
町内会長さんから「年会費が余ったので1,000円お返しします」と思いもよらぬ臨時収入が入ってきた場合と、「年会費が足りないので1,000円追加徴収します」と求められた場合、どちらが1,000円の価値を強く感じますか?
2002年にノーベル経済学賞を受賞したプロスペクト理論によると、不確実な環境下での意思決定において、私たちは利益よりも損失を重視するということが分かっています。
先の町内会費と同じような事例になりますが、例えば、「何も入っていないハズの封筒の中に、1万円が入っていたらどうでしょうか?」
その逆に「何らかの支払いのために封筒の中に入れていた1万円が無くなっていたらどうでしょうか?」もちろん、1万円が入っていた場合も嬉しいですが、無くなっていた場合は一気に冷や汗がでて、早く探さなければ!と、すぐに体が動き、別の部屋まで探しにいっているのでは?
このように1万円の利益と1万円の損失、同じ金額でありながら損失の方が強く感じる傾向にあることをプロスペクト理論といいます。
節税効果に期待してiDeCo(個人型確定拠出年金)を検討している人も多いと思います。このプロスペクト理論を踏まえると、「掛金に応じて所得控除が受けられるので、10万円節税につながります」といわれるのと、「同じ年収で既にiDeCoをはじめている人と比べると、あなたは10万円も多く税金を払っていますよ。」と言われた方が「早くはじめなければ。」と重い腰があがりそうです。
金融機関の担当者が営業でも使えそうな理論ですね。
また、それゆえに「損失を回避」しようという心理が強く働きます。
例えば、ここに2つのボックスXとYがあります。どちらかのボックスをご褒美としてもらえるとします。Xは100%の確率で70万円が入っています。一方、Yは80%の確率で100万円が入っていますが、20%の確率で何も入っていません。あなたはどちらを選びますか?
ボックスX 確実に70万円が入っている | ボックスY 80%の確率で100万円 20%の確率でゼロ円 |
おそらくあなたはボックスXを選び、確実に70万円をもらいたいと思ったのではないでしょうか?
では、これが利益ではなく損失になるとどうでしょうか。例えば、罰ゲームだとします。何らかのペナルティーとして2つのボックスのどちらかに従わなければなりません。
ボックスX 確実に70万円を 支払わなければならない | ボックスY 80%の確率で100万円を支払う必要があるが、20%の確率で何も支払う必要がない |
Xを選ぶと100%の確率で70万円のペナルティを支払わなければなりません。
一方、Yを選ぶと80%の確率で100万円支払わなければなりませんが、20%の確率で何も支払う必要はありません。つまり、ペナルティーを免れることができます。
今度は結果が決まっているボックスXではなく、どうなるか分からないボックスYを選ぶ人が多かったと思います。
「どっちにしても罰金を払わなければならないなら、70万円も100万円も、そんなに差はない。罰金を払わなくてよい可能性が残されているボックスYを選びたい。」といった心理状態でしょうか。
もちろん、違う答えの人もいると思いますが、多くの場合、こういった意思決定をしがちです。
利益の場合は、何ももらえないという事態を避け、確実に70万円をもらい、損をするケースでは、“自分は助かるかもしれない”という不確実な事象に強く反応する。まさに私たちの心理状態が影響した結果ですね。
実はこの場合、全く逆を選ぶ方が合理的です。投資の期待収益率(リターン)は利回りにそれが起こりうる確率を乗じて求めることができます。
<ご褒美の場合> 70万円×100%=70万円 VS 100万円×80%=80万円 |
合理的に考えると確実に70万円もらうよりも80%の確率で100万円をもらった方が期待収益率の高い投資であるといえます。罰ゲームの場合も同様です。
<罰ゲームの場合> ▲70万円×100%=▲70万円 VS ▲100万円×80%=▲80万円 |
確実に70万円をペナルティーとして支払う方が損失を小さくすることができます。
もちろん、このご褒美や罰ゲームが「1回きり」のイベントであれば、皆さんの思った通りに判断をするのが一番納得いく結果になるかもしれません。
ただし、もし毎日のように、このボックスどちらか選ばなければならないという場合は、感情はさておき、期待収益率を計算して、合理的にボックスを選択する方が高いリターンやを得ることができ、損失も低く抑えることができます。
では、最後に英文でプロスペクト理論(Prospect theory)を確認します。ちなみに、prospectは「見込む」という意味です。
Prospect theory assumes that losses and gains are valued differently.
Investopedia
Although there is no difference in the actual gains or losses of a certain product, the prospect theory says investors will choose the product that offers the most perceived gains.
プロスペクト理論は損失と利益は異なった価値であると推定している。ある商品の利益と損失に違いがなくても、プロスペクト理論によれば、投資家は最も近く的な利益を選ぶだろう。

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